降りてゆく生き方

そうやって新しい未来を創るためにまずやらないといけないことは、この競争社会から降りることです。『降りてゆく生き方』という映画があります。もし機会があればぜひ観て欲しいと思うのですが、これはすでに降りてゆく生き方を始めた人を取材して作られた映画です。取材先の一つに「べてるの家」というのがあります。「べてるの家」というのは、北海道の浦河というところにある精神障がいを持つ人たちの活動拠点です。彼らは、「安心してサボれる会社づくり」ということをモットーにしています。コンブを袋詰めにして売って、それで生活をしていますが、心にいろいろな病気を抱えている人たちですから、毎日バリバリ働けるわけではありません。だから「今日は疲れた」と思ったら、「休んでていいよ」ということを、お互いに認め合っています。そんなことしたら、みんな休んでうまくいかなくなるんじゃないのか、と思うかもしれませんが、それでちゃんと成り立っています。さきほど『この最後のものにも』の話をしましたが、夕方五時から働いた人も朝から働いた人も同じ一デナリオンをもらったという話をしたら、「そんなことしたら、次の日からは夕方五時にならないと誰も働かないんじゃないの?」と質問してくれた人がいました。でもどうでしょうか。べてるの家では、さぼっていいと言われたからと言って、みんながさぼっているわけではありません。もし自分が「夕方五時から働いても朝から働いても同じ一デナリオンなら、夕方五時から働こう」と思うとすれば、それはこの競争社会の中で、ゆとりをなくしていたり、傷ついたりしているからではないでしょうか。もし本当に自分が人から大切にしてもらっていれば、自分が役に立てる時には人の役に立ちたい、人を大切にしたいと思う、それが本来の人間のあり方であるはずです。そして本来であれば、それを当たり前のようにできるのが人間ですね。だからこそ私たちは今、この競争社会から降りないといけないと思います。そして互いを大切にしあえるゆとりのある社会が実現できれば、人間は決して怠け者になるのではなく、むしろ自分にも人の役に立てることがあることが喜びになっていくはずです。