手仕事の効用

手仕事というものは、人を忍耐強くしたり心を穏やかにしたり、人を成長させてくれるものです。ですからどんなに便利な世の中になっても、人は手仕事を手放してはいけないというのがガンジーの考えでした。そして手仕事を通して心を清めることができれば、欲望を愛に置き換えることができ、おのずと平和で平等な社会が実現できます。だからこそガンジーは、糸車、糸紡ぎということを独立運動の中心に据え、糸車から平和を紡ぐということを目指したわけです。そして非暴力とは何かと問われると、「非暴力とは糸車で糸を紡ぐことです」と語りました。
 実際に糸を紡いでいて、私自身の経験としてわかりますが、心が穏やかになっていきます。たとえば夫とけんかをして、すごく腹が立っているような時がありますね、そういうときに糸を紡ぐと、どうしても糸が「ぶちん」と切れてしまいます。怒りでつい手に余分な力が入るので切れるのです。でも逆に怒りがある時でも「切れないように、切れないように」と集中していると、不思議と怒りが治まって、心がすっと穏やかになってきます。そして糸紡ぎが自分自身を振り返る時間となります。ガンジーは「糸紡ぎに優る宗教礼拝を知らない」とまで、言っています。つまり糸を紡ぐ時間というのは自分自身との対話であり、神との対話の時間でもあります。人はそういう時間を失ってはいけないのです。だからどんなに便利な世の中になっても、糸を紡いだり、機を織ったり、或いは草取りもそうかもしれませんが、そういう労働を通して、人が成長すること、それを忘れてはいけないということです。そして、そういうことを通して心が穏やかに変えられていけば、それが必ず周りの人に影響を与えます。そしてそこから少しずつ人が変わっていけば世の中全体も変わっていきます。これがガンジーの目指した社会変革であり、平和革命だったのです。