家事と生きる力


 

 

「あなたがひとりで生きていく時に知っておいてほしいこと」辰巳渚(文芸春秋)

 

 

「人が家事をする力を身に付ける大切さ。つらい時も自分のために食事を用意し、部屋を片付ければ生きる気力がわいてくる。」(山陽新聞 滴一滴 2019.4.3.より)

 

家事が、生きる力をもたらしてくれるというのは、本当にそうだなと思います。

 

 中高年のひきこもりが大勢いるということが報道されていました。退職がきっかけとなった例が多いそうです。今の時代、リストラなどもあり、定年まで仕事を続けることが難しくなりました。それでも、家事をする力があれば、もう少しは救われていたかもしれません。料理や掃除などの家事をしても、収入にならないから、意味がないと思いがちですが、外食するよりは支出が抑えられます。

 

支出が減るだけでなく、手仕事も含めて家事に喜びを見出せれば、むしろ毎日が充実して満足感があるので、外出も減り、不要な買い物をしなくなるのです。こちらの方が大きい意味を持つでしょう。少ない収入で暮らせる、明るい引きこもりが実現します。一昔前の雪国の人たちは、冬の間引きこもっていたのですから、病的でないひきこもりは、あってよいと思います。

 

 私は、料理や手仕事の楽しさを知っていてよかったなと思っています。引っ越しの多い暮らしでしたから、引っ越して知り合いができるまでは、寂しい思いをしたこともあります。それでも、とりあえず糸を紡ぐという喜びを知っていましたから、救われました。

 

 一人ぼっちという寂しさをかみしめながらも、料理や糸を紡いでいると、不思議と元気が湧いてくるのです。手を動かしながら、落ち込むということはなかなか難しいことです。引っ越しがきっかけでうつ病になる方もあるそうですが、私がそうならずに済んだのは、糸紡ぎのお蔭でした。そして、どこで暮らしても、共に糸を紡ぐ仲間が与えられているのも、本当に感謝なことです。

 

ただし、この境地に達するまでは、ある種の努力も必要です。習慣化するまでは、たった一人でも今日はこれをするぞと、毎朝、気合を入れて、手と足を動かすことが必要です。23日やって、飽きてきたころには、さらに自分を叱咤激励しなければなりません。

 

そうやって初めて、深い満足をもたらしてくれる喜びを手にできるのです。お手軽の楽しさがあふれている時代に、この本物の喜びを伝えるのはなかなかやりがいのあることです。

 

工業化、機械化によって仕事の喜びが奪われているという話を先日書きました。仕事のストレスが増えたために、ゆったり、楽しく生きたいという人が増えているのも無理もないことです。しかし、ガンディーは機械に依存しないことを勧めましたが、それは決してゆったり、のんびり暮らすことではありませんでした。勤勉であることを説いています。料理などを面倒に思わないで自分でする勤勉さが、生きる力です。

 

 人々が生きる力を取り戻し、今住んでいるこの場所が糸紡ぎの里となっていくことを夢見ながら、私は今日も糸を紡いでいきます。