地方再生

片山善博氏の講演会が2月5日に地元の美作大学であり、聞いてきました。
テーマは 真の「地方再生」でした

 特に印象に残った話は、人手不足であっても若者が都会へと流出するのは、雇用環境が悪いからという話でした。例えば、アパレル産業では、2万円の高級下着を作っても、下請けだと、納品価格は1000円だそうです。もちろんメーカーは、デザイン、マーケティング、宣伝費用をかけて販売しているわけですが、それでもずいぶん開きがあると感じました。
 このように従業員に最低賃金しか支払えない構造があるから、若者は流出し、安い賃金でも働いてくれる外国人を雇うしかない状況だそうです。
 そこで、片山氏は、デザイナーを養成し、自己ブランドを作って、マーケティングをして、仮に2000円で売ることができれば、賃金を上げることもできる。そうやって縫製業だけでなく、いろいろな仕事を作っていくことが重要だと提案されていました。
 地元企業が技術力を高めたり、給食の食材の地産地消化を推進したりなど、大切な指摘もたくさんありましたが、忘れてはならないことが、まだあるようにも思いました。、

地方再生をビジネスの視点からとらえていては、見落としてしまうことがあるのではないかと、私は感じています。以下に私が思うことをまとめてみました。
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現代人の特徴
 有名ブランド品であれば、高くても買うという、都会の人たちの見る目のなさに少しあきれましたが、物の真価を見極められなくなっているのは、都会の人に限らず、現代人の特徴だと思います。そして、コマーシャルなどに踊らされやすいです。危険ですね。
 「人に贈り物をするときは、有名百貨店の包装紙で包んだものにしなさい」と母がよく言っていました。包装紙なんて、ただのゴミじゃないかと、私は思ったものです。しかし、創業百年を超えるような老舗は、良いものをお客さんに提供することを誇りとしていました。だから、包装紙に価値があったのです。ところがいつしか、品物よりも包装紙をありがたがるように変わってしまいました。そして、今では包装紙の価値も下がりつつあるようです。最近では、百貨店よりも、イオンモールに人が集まっています。
 良いものを長く使うという習慣がすたれ、使い捨ての時代になりましたから、良いものかどうかよりも、値段がいくらかが重要視されるようになりました。ブランド品にこだわらない人は、少しでも安いものを買う傾向があります。地域の自己ブランド品である2000円の下着よりも、800円の外国産の下着を買ってしまうでしょう。ブランド品にこだわる都会のセレブ達は、やはり2万円でも一流メーカーのものを買い続けるでしょう。そんな気がします。

真の再生は物の真価を知ることから
 そこで必要なことは、人々に物の真価をわかってもらうことです。そうすれば、地域が宝の山であることがわかるでしょう。その宝を、都会に流出させないことです。
 「糸紡ぎや機織りに励んでも、今なら安く服が買えるのに…せっかく高い学費を出して大学までやってあげたのに…」と母は思っているかもしれません。84歳になる母はとりあえず元気に暮らしており、近くの公民館でのグー・チョキ・パーの体操などに出かけています。右手と左手で別の動きをするのがなかなか難しく、頭の体操になると言っています。糸紡ぎだって、右手と左手で別の動きをするから、認知症の予防になるのになあと思ってしまいます。
 地域の暮らしはもともと生業です。ビジネスでは成り立ちません。損か得か、利益になるかならないかは度外視して、みんなで協力し合って、生きていくしかないのです。年を取ったり、病気で働けない人が出れば、周りの人が支えていくしかありません。いつかは自分だって働けなくなる時が来て、支えてもらわねばならないのなら、働けるうちは、支える側にとなるわけです。
 そういう視点から考えていけば、糸紡ぎや機織りが地域に根付いていく可能性があるような気がします。糸紡ぎなら体力をそれほど必要としないので、農業がきつくなった方々でもできます。地域の方々が余暇を利用して糸紡ぎに励むなら、そして、その結果、服が出来上がるようになれば、体操教室に通う以上の充実した暮らしを手にできるのではないでしょうか?
 都会から田舎に移住した人が喜ぶことは、近所の農家から野菜をいっぱい分けていただけることです。その延長で、農家のおばちゃんたちが作った服を、移住者の子どもたちが着るようになったら、素敵だなと妄想が膨らんでいきます。そして、移住してきた若いお母さんたちも一緒に、糸を紡ぎだしたらもっと素敵です。孤独な寂しさを誰も味わうことがなく、みんなが生き生きと暮らし、そして、近くの畑で採れた綿から作った服をみんなが着ている・・・妄想でしょうか?
 販売とか、金もうけとかを最初から考えなかったらよいのです。金銭的収入にはならなくても、衣類という必需品をお金で買わなくても済むようになります。衣類だけでなく、バッグや財布だって、端切れから作ることができます。布草履だってできます。そして、生きがいが生まれます。
 作るという作業に少しでも携われば、物を見る目が変わります。簡単には捨てられなくなります。作ってくださった方々への感謝の心が生まれます。労働の尊厳と物の価値が本当にわかるようになったときに、地域は再生していくのだと思います。(2019.2.7.)